案を10個出して、と頼む。返ってくるのは、どれも見たことのある内容。
この現象には理由があります。仕組みを知ると、頼み方が変わります。
無難な方向に寄る仕組み
言語モデルは、次の語を確率で選びながら文を作ります。確率が高い語ほど選ばれやすい。
確率が高いということは、学習データによく出てきたということです。つまり、ありふれた言い回し、よくある発想が選ばれやすくなっている。
2019年の論文が、この性質を扱っています。確率を最大化する方式で文章を作らせると、平板で奇妙に繰り返しの多い文章になった、と報告されました。人が書いた文章とは確率の分布が違う、とも。
アイデア出しでは、この平板さがそのまま出てきます。
10個出させても3個目から薄くなる
試すと分かりますが、最初の2つか3つは妥当な案が出ます。そこから先が急に苦しくなる。
数を指定されているので、埋めるために出しているからです。1つの発想を言い換えただけのものや、実行できないものが混ざってきます。
数を出させるより、方向を変えて何度も聞くほうが実りがあります。
効く頼み方
制約を付けると、探す場所が変わります。
「予算をかけずにできる案を」「1週間で試せる案を」「あえて非常識な案を」。条件を付けると、無難な領域から外へ出ます。制約が発想を絞るのは、人間の会議と同じです。
視点を指定するのも効きます。「新入社員の立場から」「予算を承認する側から」「競合の立場から」。同じ問いでも、立ち位置を変えると出るものが変わる。
それから、悪い案を出させる。「絶対に失敗する案を5つ」と頼むと、そこから裏返して考えられます。
材料を渡す
いちばん結果が変わるのは、状況を伝えることです。
何をやろうとしていて、何を試して駄目だったか。使える予算と時間。関わる人。制約になっている条件。
これを渡さずに「案を出して」と頼めば、一般論が返ってくるのは当然です。手元にある材料の分だけ、具体的な案になります。
特に「試して駄目だったこと」が効きます。それを避ける方向に探すようになるので、既に潰した案が並ぶのを防げる。
揺れを味方にする
同じ質問を二度投げると違う答えが返る性質は、アイデア出しでは利点になります。
1回で判断せず、3回聞いて並べる。重なった案は誰でも思いつくもの、1回しか出なかった案は当たりか外れか。後者を見ていくほうが面白い。
設定を変えられる環境なら、揺れ幅を大きくする値を上げる手もあります。破綻しやすくなりますが、アイデア出しなら破綻も材料になります。
壁打ちとしての使い方
案を出させるより、こちらの案にぶつけるほうが実りが多い場面もあります。
自分の考えを説明して、「この案の弱いところは」「反対する人は何を言いそうか」と聞く。批判は一般論でも役に立ちます。抜けている観点を思い出すきっかけになるからです。
説明する過程そのものにも効果があります。人に話すと考えが整理されるのと同じで、言葉にするために曖昧な部分を詰めることになる。
相手が納得しても意味はありませんが、こちらの整理が進めば十分でしょう。
出てきた案の扱い
そのまま採用できる案は、めったに出ません。
使えるのは、案そのものより、そこに含まれている切り口のほうです。「そういう方向があったか」と気づければ、その先は自分で詰められる。
10個並んだうち9個が凡庸でも、1個に使える角度があれば元は取れます。全部が使えることを期待すると、毎回がっかりします。
選ぶのは人
出た案の評価まで任せるのは勧めません。
「この中でどれが良いか」と聞くと、それらしい理由を付けて選んでくれます。ただしその判断に、自社の事情や、言葉にしていない制約は入っていません。
案を広げるのは得意、絞るのは苦手。そう考えて分担するのが実務的でしょう。
会議の前に使う
実務で効きやすいのは、会議そのものより準備の段階です。
論点を洗い出す、想定される反論を並べる、資料の抜けを探す。ひとりで考えると見落とすところを、機械的に列挙させる用途なら十分に働きます。
会議の場で使うと、その場の空気や言外の事情が入っていないぶん、外れた案が混ざります。準備で使い、判断は人が集まって決める。この分担が現実的でしょう。
ひとりで詰まったときの相手としては、いつでも付き合ってくれるぶん都合がよい。それだけでも使う理由になります。
深夜でも、思いつきの断片でも、そのまま投げられる。相手が人だと躊躇するところを飛ばせるのは、実は大きな差かもしれません。
出典
確率最大化による文章の平板化については、下記の論文に基づきます。揺れ幅を調整する設定項目の仕様は、OpenAIの公式APIリファレンスで確認しました。

