契約書を渡して要点を拾わせる使い方は、実務でよく効きます。
ただし最終判断には使えません。下読みとして機能する部分と、人に渡すべき境目を分けます。
下読みとして働く場面
分量のある文書から、見るべき箇所を絞る作業です。
30ページの業務委託契約を渡して、「解除、損害賠償、知的財産、秘密保持の条項だけ抜き出して」と頼む。該当箇所が拾えれば、読む範囲は数ページに減ります。
条文の言い回しを平易にさせるのも有効です。二重否定や長い修飾が続く文は、素直な文に直すと意味が見える。
相手方から送られてきた修正版と、自社の原案を並べて差分を出させる使い方もあります。見落としがちな一語の変更に気づける。
よくある確認項目
| 項目 | 見るところ |
|---|---|
| 契約期間と更新 | 自動更新か、更新拒絶の通知期限はいつか |
| 解除 | どちらから、どんな条件で解除できるか |
| 損害賠償 | 上限があるか。間接損害を含むか |
| 知的財産 | 成果物の権利がどちらに帰属するか |
| 秘密保持 | 期間と、範囲から外れるもの |
| 準拠法と裁判所 | どこの法律で、どこで争うか |
「該当箇所を条番号つきで引用して」と指定するのが要点です。要約だけ返ってくると、原文と照らせません。
聞き方で精度が変わる
全文を貼って「問題点を教えて」と聞くのが、いちばん外れる形です。
立場を先に伝えたい。「受注側として読む」「発注側として読む」で、注目すべき条項が変わります。同じ文面でも、不安になる箇所は逆になる。
取引の中身も一行で足します。「6か月の開発委託、成果物はソフトウェア、金額は中規模」。これだけで、抜き出される条項の並びが変わってきます。
出力の形も指定する。「条番号/原文の引用/気になる理由」の3列で返させると、原文に戻りやすくなります。
修正案を作らせる場合
条文の書き換え案を出させる使い方もあります。
そのまま送るのは避けたい。文言の一語で意味が変わる世界なので、書き換え案は「こういう方向で直したい」を伝えるためのたたき台として扱います。
相手方に送る前に、変更した箇所を一覧にする。どこを、なぜ変えたのか。これが言えない修正は、交渉の場で説明できません。
できないこと
その条項が自分にとって不利かどうかの判断は任せられません。
不利かどうかは、取引の力関係、これまでの経緯、この先の見通しで変わります。契約書の文面だけからは決まらない。
法令との整合も危うい部分です。下請法や労働者派遣法のように、契約の書きぶりにかかわらず適用される規制がある。条文の対応関係を確かめずに答えが返ってくることがあります。
存在しない条文番号や、改正前の内容が出てくる場合もある。確信がないときに黙るより推測したほうが有利になる構造が、学習の過程に組み込まれているからです。
入力してよいか
契約書には、相手方の秘密情報が含まれます。
秘密保持条項が入っている契約書を、外部のサービスに貼り付ける行為そのものが、その条項に触れる可能性がある。開示先を限定する書き方になっていれば、なおさらです。
法人向けの契約で、入力内容を学習に使わない設定になっているかを先に確認したい。個人アカウントで社外の契約書を扱うのは、避けるのが無難です。
社名と金額を伏せても、下読みの精度はほとんど落ちません。「甲」「乙」「金◯◯円」のままで、構造は読めます。
人に渡す境目
下読みで終わらせず、専門家に確認すべき場面があります。
金額が大きい。期間が長い。解除しにくい。責任の上限がない。この4つのどれかに当たるなら、費用をかけて見てもらう価値があります。
相談する側にとっても、下読みは無駄になりません。論点が整理された状態で持ち込めば、確認してもらう時間が短く済みます。
逆にいえば、下読みの価値はそこにある。判断を代わりにさせるのではなく、判断してもらう準備を早く終わらせる道具として使う。
過去の契約と比べる
手元にある同種の契約書と並べると、違いが浮きます。
「前回の委託契約と、今回の条件が違う箇所を挙げて」と頼む。金額や期間の違いは自分で気づきますが、責任範囲の書きぶりが変わっていることには気づきにくい。
同じ相手との継続取引なら、この比較がいちばん役に立ちます。前回どおりのつもりで署名して、条件が変わっていた。この事故を防げる。
署名の前に
最後に自分の目で原文を読みます。
抜き出させた箇所だけでなく、抜き出されなかった箇所にも目を通す。拾い漏れは必ず起きるものだからです。
署名した後で「そこは読んでいなかった」は通りません。読んだことにされるのが、契約書という文書の性質です。
出典
推測が起きやすい理由と、入力時の注意点は下記に基づきます。

