外注先がAIを使って作った成果物は、誰のものか。
権利の帰属と、問題が起きたときの責任。書いておくべき条項を見ていきます。
前提として難しい点
AIが生成したものが著作物にあたるかどうか、一律には決まりません。
文化庁がまとめた考え方では、人が創作的に関与しているかどうかで判断されるとされています。指示の具体性、試行の回数、生成後に手を入れた程度。これらを総合して見る。
著作物にあたらなければ、著作権も発生しません。「著作権を譲渡する」とだけ書いた契約では、譲る対象がない場合が出てきます。
そこで、権利の譲渡だけでなく、使用を制限しない形の条項も併せて置くことになります。
書いておく5項目
| 項目 | 定める内容 |
|---|---|
| AI利用の可否 | 使ってよいか、事前承諾が要るか |
| 開示義務 | 使った場合に納品時に知らせるか |
| 権利の帰属 | 著作権の譲渡と、独占的な利用の保証 |
| 第三者の権利 | 侵害していないことの表明と、その範囲 |
| 秘密情報の入力 | 渡した資料を外部サービスに入れてよいか |
5番目が重要なのは、発注側が渡した資料が、外注先を経由して第三者のサービスに渡る可能性があるからです。秘密保持条項に「再委託の禁止」はあっても、AIサービスへの入力は想定されていないことが多い。
禁止するか、許すか
一律に禁止する契約も見かけます。
ただ、実効性には疑問が残ります。どこまでをAIの利用とみなすのか。文章校正の機能も、翻訳も、いまや多くのソフトに組み込まれている。線が引けません。
現実的なのは、成果物の性質ごとに分ける形でしょう。デザインやイラストの主要部分は禁止または事前承諾、下調べや文字起こしは自由。こう書けば運用できます。
責任の所在
納品物が他人の権利を侵害していた場合、誰が責任を負うか。
通常は外注先が保証する形になります。ただし「AIが生成したものなので分からない」という主張が出てくると、話が止まる。保証の範囲を具体的に書いておきたい。
賠償の上限を定めるのも一般的です。上限がないまま受ける外注先は少ない。発注側としては、上限額が想定される損害に見合うかを見ます。
旧・下請法にあたる場合
取引の規模によっては、別の規制がかかります。
長く「下請法」と呼ばれてきた法律は、2026年1月1日施行の改正で名称と用語が変わりました。いまの題名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」。親事業者・下請事業者という呼び方も、委託事業者・中小受託事業者に改められています。
適用の範囲は、委託の種類と資本金の組み合わせで決まります。デザインや記事の制作は「情報成果物作成委託」にあたり、資本金5,000万円超の法人が5,000万円以下の相手に委託する場合などが対象です。常時使用する従業員数を基準とする区分も新たに入りました。
該当すると、いくつかの義務が生じます。4条は、委託した場合に給付の内容・代金の額・支払期日などを直ちに書面または電磁的方法で明示することを求めている。3条は、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定めるよう定めています。
AIの利用を理由に単価を引き下げる交渉にも、条文が関わります。5条1項は、同種の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることを禁じている。作業時間が短くなったことだけを根拠に一方的に下げると、ここに触れる可能性がある。
同条には、費用の変動などが生じて受託側が代金の協議を求めたのに応じず、一方的に額を決めることを禁じる規定も置かれました。値下げも値上げも、協議の記録を残しておきたい。
発注側が渡す資料
こちらの側にも義務が生じます。
渡した資料に他人の権利物が含まれていれば、それを使わせたことになります。参考として渡した画像や文章の出どころは、確かめておきたい。
顧客の個人データを渡す場合は、委託にあたるかどうかの整理が要る。委託であれば、委託先を監督する義務が発注側に残ります。
既存の契約はどうするか
継続中の契約に、この論点が入っていないことがあります。
更新のタイミングで覚書を交わすのが現実的でしょう。全文を巻き直さなくても、追加の条項だけ合意すれば足ります。
言いにくい話に見えますが、双方にとって守りになる内容です。外注先の側も、後から責任を問われる範囲が明確になるほうが受けやすい。
出典
条文と考え方の整理は下記に基づきます。実際の契約は弁護士にご確認ください。

