AIの学習は著作権侵害になるのか|著作権法30条の4を条文から読む

AI学習と著作権法30条の4 法務とルール

「AIに他人の絵や文章を学習させるのは違法なのか」。この質問には、日本法についてなら比較的はっきりした答えがあります。

著作権法第30条の4により、原則として適法です。許諾は要りません。

問題は条文の続きです。そこを読み落とすと話が逆さまになります。実際、日本語で出回っている解説の多くはこのただし書きを一行で流しています。条文を最後まで引いて確認しましょう。

著作権法30条の4はどう書かれているか

条文の柱書きはこうです。

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

鍵は「享受」という語です。作品を味わうこと、鑑賞すること。それを目的としない利用なら、方法を問わず使ってよい、と書いてあります。

そして具体例として挙げられている第二号が、AI学習に当たる部分です。

二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。)の用に供する場合

大量のデータから要素を抽出して統計的に解析する。機械学習そのものの説明です。この条文が入ったのは2018年(平成30年法律第30号)の改正で、施行は2019年1月1日。生成AIが世に広まるより前から用意されていた規定でした。

30条の4と、文化庁の整理が出るまでの流れ
30条の4と、文化庁の整理が出るまでの流れ

見落とされがちな「ただし書き」

柱書きの末尾には、こう付いています。

ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

情報解析であっても常に許されるわけではない、という意味です。著作権者の利益を不当に害するなら適用外です。

では何が「不当に害する」のか。条文だけでは分かりません。ここを埋めているのが文化庁の資料です。

文化庁が示している線引き

文化審議会著作権分科会の法制度小委員会が2024年3月15日にまとめた「AIと著作権に関する考え方について」に、重要な整理があります。

30条の4は、享受を目的とする利用には適用されない。ここまでは条文どおり。問題はその次です。

主たる目的が非享受であっても、享受する目的が併存している場合には適用されない、としています。「学習が主目的だから大丈夫」では通らないということ。

非営利目的や研究目的であっても扱いは同じです。享受目的が併存していれば著作権者の許諾が必要になります。営利か非営利かは、この条文の判断基準ではありません。

具体的に危ないのは、特定の作家の作風を再現させる目的で、その作家の作品だけを集めて追加学習させるような使い方でしょう。学習の形はとっていても、狙いは出力を享受することです。

学習段階と、生成・利用段階は別の話

ここが混同されやすいところです。

30条の4が扱うのは、学習させる段階の話に限られます。出てきた生成物をどう扱うかは、まったく別の枠組みで判断されます。

生成物が既存の著作物と似ていて、かつその著作物に依拠して作られたと言える場合、それは通常の著作権侵害です。第21条以下が定める複製権や翻案権の問題になります。AIを使ったからといって特別扱いはありません。

段階 関係する条文 判断のポイント
学習させる 第30条の4 享受目的が併存していないか/著作権者の利益を不当に害さないか
生成する・使う 第21条ほか 既存著作物との類似性と、それに依拠したと言えるか
学習が適法でも、生成物の利用が侵害になることはある

学習は問題なかった。でも出てきた絵が既存キャラクターにそっくりで、それを商品にした。この場合、責任を問われるのは後半の行為です。

これは日本国内の話でしかない

30条の4は日本の著作権法の規定です。世界共通ではありません。

アメリカにはこれに相当する明文の規定がなく、フェアユースという一般条項で個別に判断されます。訴訟が相次いでいるのはそのためです。EUはDSM指令でテキストマイニングの例外を設けていますが、権利者が拒否の意思表示をできる仕組みが入っています。

サービスを海外にも出すつもりなら、日本法だけを見て判断するのは危険でしょう。

実務でどう動くか

文化庁は2024年7月31日に「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」も公開しています。開発する側と利用する側それぞれについて、確認すべき点が並んでいる資料です。社内で規程を作るなら、まずこれを配るのが早いと思います。

実務上、押さえておきたいのは3点。

ひとつ、学習用のデータをどこから取ったか記録を残すこと。海賊版サイトから集めた素材は、それ自体が別の問題を生みます。

ふたつ、特定の個人や作品に寄せた学習をしないこと。作風の再現を狙った瞬間に、享受目的の併存を疑われます。

みっつ、出てきたものを世に出す前に、既存の作品と似ていないか確認する工程を挟むこと。学習段階の適法性は、生成物の安全を保証してくれません。

この記事は条文と公式資料の一般的な説明にとどまります。個別の案件について結論を出すものではありません。判断に迷う具体的な事案は、弁護士に相談してください。

出典

2026年9月9日に確認しました。条文は e-Gov 法令検索に掲載されている著作権法の本文を引用しています。文化庁の見解は同庁が公開している資料に基づきます。

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