Metaが、エンジニアの人事評価からAIツールの利用量を外しました。2026年9月8日付の社内メモです。
やめた理由が、AI導入を進めている会社にとって示唆的でした。数値目標にした途端、数字を作る行為そのものが始まったからです。
何を測っていたのか
Metaは、AIツールをどれだけ使ったかを人事評価の判断材料のひとつにしていました。測り方は、社内のダッシュボードとトークンのカウンターです。
エンジニアがどれだけAIを使ったかが数字で並び、それが評価に効く。AI活用を全社に広げたい会社なら、一度は考える設計だと思います。
今回のメモを出したのは、Maher Saba氏とSantosh Janardhan氏。AIのダッシュボードとトークンのカウンターは今後、人事評価に反映しないと明記されています。代わりに見るのは、仕事の質、速さ、複雑さ。
「トークン水増し」が起きていた
何が起きたか。社内では tokenmaxxing と呼ばれるようになったそうです。
社内のランキングで見栄えをよくするために、トークンをまとめて消費する。仕事のために使うのではなく、使った記録を作るために使う。
評価される数字が「利用量」である以上、合理的な行動ではあります。責められるのは個人ではなく、その設計のほうでしょう。
なぜ利用量は指標にならないのか
測られた瞬間に、指標は目的になります。これは新しい話ではありません。
コード行数で評価すれば冗長なコードが増える。バグ修正件数で評価すれば、直しやすいバグから手をつける。AIの利用量も同じ構造にあります。
しかもAIの利用量には、他の指標にない性質があります。増やすのが極端に簡単です。コード行数を水増しするには手を動かす必要がありますが、トークンは長い入力を投げるだけで消えていきます。
そして、使えば使うほど会社の請求額が増える。水増しに直接コストがかかる指標を評価に使っていたことになります。
コストの問題が背景にある
報道によれば、Metaの社内AI利用にかかる費用は2026年に数十億ドル規模へ向かっているとのこと。
同社は2027年から、予算と中央のダッシュボードを設ける計画を進めているとされています。使うことを奨励する段階から、いくら使ったかを管理する段階へ移ったということでしょう。
では何を測るべきか
Metaが代わりに置いたのは、質・速さ・複雑さでした。つまり成果側です。
AI導入の目標を立てるとき、利用率や利用人数を置きたくなる気持ちは分かります。数えやすいので。ただ、数えやすい指標ほど作りやすいという関係があります。
実務で置くなら、こちら側でしょう。ある業務が何時間で終わるようになったか。手戻りが何件減ったか。同じ人数で処理できる件数が増えたか。
どれも測るのが面倒です。面倒だからこそ水増ししにくい、とも言えます。
利用率を見ること自体が無駄なわけではありません。導入直後に「誰も触っていない」ことを知るには有効な数字です。ただしそれは進捗の把握であって、評価の材料ではない。両者を分けておかないと、Metaと同じ道をたどります。
水増しできる指標と、できない指標
指標を選ぶときの見分け方はひとつです。それを担当者が単独で増やせるか。
| 指標 | 水増し | 何が起きるか |
|---|---|---|
| トークン消費量 | とても簡単 | 長い入力を投げるだけで増える |
| AIツールの起動回数 | 簡単 | 開いて閉じるだけ |
| AIを使った案件の件数 | やや簡単 | 使わなくてよい場面でも通す |
| 処理にかかった時間 | 難しい | 他部署の記録と突き合わせられる |
| 手戻り・差し戻しの件数 | 難しい | 相手がいるため一人では動かせない |
| 1人あたりの処理件数 | 難しい | 件数の水増しは受け手に見える |
下3つに共通するのは、自分の外に相手がいることです。時間は記録に残り、手戻りは相手が数え、処理件数は受け取る側が見ている。だから作れません。
逆に上3つは、全部ひとりで完結します。誰にも迷惑をかけずに数字だけ増やせる。Metaで起きたのは、その一番上です。
導入の途中で指標を切り替える
現実的な進め方としては、段階で分けるのがよさそうです。
導入したばかりの時期は、誰も触っていないことが最大の問題になります。この段階では利用率を見る意味があります。ただし見るのは全体の傾向であって、個人の評価には使わない。「3部署のうち1部署だけ動きが鈍い」を拾うための数字です。
使われ始めたら、成果側の指標に切り替えます。ここで利用率を持ち越すと、Metaと同じことが起きます。
切り替える時期の目安は、対象者の大半が週に何度か触るようになったころでしょう。そこから先の利用量の伸びは、成果とほとんど関係がなくなります。
出典
2026年9月9日に確認しました。社内メモの内容はThe Informationが最初に報じたもので、当サイトでは原文を確認していません。以下はその報道を扱った記事です。一次資料にあたれていない点にご留意ください。

