便利な道具は、必要のない場面でも使われるようになります。
結果として遅くなったり、判断が鈍ったりする。兆候と防ぎ方を整理します。
かえって遅くなる場面
自分で書けば3分で終わる短いメールを、指示を考えて、出力を読んで、直して送る。
この形になっていると、時間は増えています。しかも直す作業のほうが、書く作業より疲れることがある。
目安は「頭の中に答えが浮かんでいるか」です。浮かんでいるなら、書いたほうが速い。浮かんでいないときだけ相談する。
考える前に聞いてしまう
もっと厄介なのがこちらです。
分からないことに当たった瞬間に聞く癖がつくと、自分で考える時間が消えます。考えている途中の、答えが出ていない状態に耐えられなくなる。
この状態が短くなると、思いつく範囲も狭くなります。既にある答えを早く手に入れる方向にだけ、うまくなっていく。
先に自分で5分考える。それから聞く。この順番を守るだけで、だいぶ違います。
兆候
| 兆候 | 意味 |
|---|---|
| 出力をそのまま送っている | 確認が形だけになっている |
| 自分の意見を先に言えない | 判断を預けはじめている |
| 指示を考える時間が長い | その作業は自分でやるほうが速い |
| 使わない日に手が止まる | 技能が落ちている |
4つ目が分かりやすい指標です。接続できない環境で、いつもの仕事が回るかどうか。回らないなら、依存の度合いが想定より深い。
回数を目標にしない
組織で導入すると、利用回数を目標に置きたくなります。
回数を追うと、回数だけが増える。使う必要のない場面で使われ、確認の手間が増えて、全体では遅くなることがあります。
見るなら、業務の所要時間や、やり直しの回数を見たい。道具を使ったかどうかではなく、仕事がどうなったかを測る。
使わない時間を作る
意識だけで抑えるのは難しい。仕組みにしたほうが続きます。
午前中は使わない。企画を考える日は開かない。最初の30分は自分で書く。時間で区切るやり方は、判断を毎回しなくて済むぶん楽です。
紙とペンに戻す時間を作るのも効きます。画面から離れると、思いつく内容が変わることがある。散歩でも同じです。
相談相手として使いすぎる
業務の外でも、判断を預けてしまう場面があります。
迷ったことを何でも相談していると、返ってくる答えは無難なものになりやすい。角の取れた、誰にも当てはまる助言です。それに沿って決め続けると、自分の選択に色がなくなっていきます。
相談相手として使うなら、答えではなく論点を出してもらう形にしたい。「どちらがよいか」ではなく「決めるときに見るべき点は何か」と聞く。
人に相談する機会を減らさないことも大事です。手軽さでは勝てませんが、その人が自分を知っているという条件は代わりが利きません。
仕事以外に広げるとき
家庭や趣味で使うぶんには、線を引く必要は薄い。
ただし、子どもの宿題や学習に関わる場面は別です。答えを得る道具として渡すと、考える機会がそのまま消えます。
大人が仕事で使うときと同じ問題が、より強く出る領域だと考えておきたい。
確認が形だけになる
出てきたものを見る役は、繰り返すほど雑になります。
何度も問題がなければ、次から見なくなる。これは意志の弱さではなく、注意の性質です。ずっと同じ緊張を保てる人はいません。
見る箇所を絞るのが対処になります。数字、固有名詞、日付。全部を見ようとするより、3つだけを毎回見るほうが続きます。
重要な文書だけ、別の人にも見てもらう形にすると、なお安全です。同じ人が二度読むより、違う人が一度読むほうが見つかります。
使い方を人と話す
ひとりで使っていると、自分の癖に気づけません。
同じ職種の人と、どこまで任せているかを話してみる。想像より広く任せている人も、狭く使っている人もいます。自分の位置が分かるだけで、調整の材料になる。
社内で共有する場があるなら、うまくいった例だけでなく、やめた例も出したい。「これは任せないことにした」という話のほうが、実は役に立ちます。
自分の言葉を持つ
使いすぎの本当の損失は、時間ではありません。
自分の考えとして言えることが減っていく。会議で意見を求められたときに、何も出てこない。この状態が、いちばん取り返しにくい。
道具として使うか、道具に使われるか。線を引くのは、まだ引ける状態のうちにしておきたいところです。
使うのをやめる必要はありません。使う場面を自分で選べているか。確かめる基準は、そこだけで足ります。
出典
運用と評価の考え方は下記に基づきます。

