従業員のAI利用と就業規則|何を定めておくべきか

就業規則に書く 法務とルール

禁止するか、許すか。

どちらにしても規則に書いていなければ、事故が起きたときに処分できません。定めるべき項目を見ていきます。

書いていないことは問えない

労働契約法7条は、合理的な労働条件が定められた就業規則を労働者に周知させていた場合に、労働契約の内容はその就業規則によるものとする、と定めています。

周知されていない規則は、契約の内容にならない。社内の一部だけが知っている運用ルールを根拠に処分すると、争われたときに持ちません。

懲戒についても同じです。労働契約法15条は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でない懲戒は無効だと定めています。規則に定めのない行為を理由にするのは難しい。

つまり、後から問題にしたい行為があるなら、先に書いておくしかない。

定めるべき5項目

項目 書く内容
使ってよい範囲 会社が認めたサービスと、業務の種類
入力してよい情報 禁止する情報を具体例で挙げる
成果物の扱い 権利の帰属と、確認の義務
個人アカウントの扱い 業務での使用を認めるかどうか
違反したときの手続き 報告先と、懲戒の対象になる行為
禁止事項だけ並べるより、許可の範囲を書くほうが機能する

4番目が見落とされがちです。個人のアカウントで業務を進めている状態は、情報がどこに残るか会社が把握できません。認めないなら明記する。

全面禁止は機能しにくい

禁止しても、使われる。

手元の端末で個人のアカウントを使えば、会社からは見えない。禁止すると、報告されないまま使われる形になります。事故が起きても発覚が遅れる。

許可した環境を用意し、そこを使わせるほうが管理できる。禁止するなら、代わりに何を使うかとセットで示したい。

成果物と労働時間

2つ、論点になりやすい部分があります。

ひとつは権利の帰属です。業務で作らせたものが会社に帰属することは、著作権法15条の職務著作の規定で整理できる場合があります。ただしAI生成物については、そもそも著作物にあたるかという別の問題がある。契約で扱いを定めておくのが確実です。

もうひとつは評価との関係。作業が速くなったぶんを、どう扱うか。生産性が上がった従業員に仕事を積み増すだけの運用は、不満につながります。

研修とセットにする

規則だけ配っても守られない。

何が危ないのかが分かっていないと、悪意なく違反します。顧客名簿を貼る、契約書を要約させる。危険だと思っていないから起きる。

具体例を挙げた短い研修を、規則の周知と一緒にやる。周知の記録を残しておけば、労働契約法が求める要件も満たせます。

不利益変更にあたるか

規則を新しく作る場合、注意点があります。

労働契約法9条は、労働者の合意なく就業規則を変更して労働条件を不利益に変更することを、原則として認めていません。

利用のルールを定めること自体は、通常これにあたらないと考えられます。ただし懲戒の種類を増やすような変更は、慎重に進めたい。

手続きの面も押さえておきたい。労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則の作成と行政官庁への届出を義務づけています。変更した場合も同じです。

同法90条では、作成または変更にあたって、労働者の過半数で組織する労働組合、それがなければ労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないとされています。届出には、その意見を記した書面を添える必要があります。

減給には上限がある

制裁を定めるなら、金額の制限を知っておく必要があります。

労働基準法91条は、減給の制裁について、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないと定めています。

重い違反があっても、減給だけで対応しようとすると上限に当たる。想定される事態に対して、どの手段を用意しておくかを先に考えたい。

見直しの間隔

一度書いて終わりにはならない。

使うサービスも、できることも変わる。半年から1年で見直す前提にしておきたい。

具体的な製品名を規則本体に書き込むと、変わるたびに改定が要ります。本体は原則だけにして、使ってよいサービスの一覧は別の文書に置く。この分け方が扱いやすい。

副業や持ち帰りとの関係

見落とされやすい論点がもうひとつ。

業務で覚えた指示文や手順を、個人の副業に持ち出す。技術そのものは個人の能力ですが、社内の事情を書き込んだ指示文は会社の情報に近い。線引きが曖昧なままだと、後から揉めます。

秘密保持の条項がある就業規則なら、その解釈に含めるか、別途明記するか。どちらかを選んでおきたい。

出典

条文の内容は下記に基づきます。実際の制度設計は、社会保険労務士や弁護士にご確認ください。

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