動画のナレーションや社内の読み上げに、無料の音声合成モデルを使いたい。Hugging Faceで探すと候補が多すぎて、どれが日本語をちゃんと読めるのか分からない。そういう状態で止まっている人は多いと思います。
Hugging Faceによると、2026年9月30日時点でHub上の音声合成(TTS)モデルは8,000を超えていました。同じ日に公開されたのが、オープンなモデルを同じ条件で比べる「Open TTS Leaderboard」です。
Open TTS Leaderboardとは
これまでの音声合成の比較は、2つのモデルの音声を聞き比べて投票してもらう「アリーナ」形式が中心でした。人の耳で決めるので信頼できる反面、票が集まるまで数週間かかる。オープンなモデルは運営側がサーバーで動かす手間があるため載りにくく、比較サイトのArtificial Analysisでは92モデル中オープンウェイトは16だけだった、と発表に書かれています。
Open TTS Leaderboardは、人の投票ではなく機械で測れる指標を使います。評価は数週間から数時間に縮んだそうです。
| 指標 | 測り方 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| WER / CER(誤り率) | 生成した音声を音声認識(Qwen3-ASR)で文字に戻し、元の文と比べる | 聞き取りやすく、正しく読めているか。日本語・中国語・韓国語は文字単位のCER |
| RTFx(速さ) | H200 GPUでまとめて生成したときの、実時間に対する速さ | 大量に作るときの処理速度 |
| TTFA(最初の音までの時間) | 1件ずつ、ストリーミングで最初の音が出るまで | 音声対話に使えるか |
| SIM(声の似かた) | 見本の声と生成した声の特徴の近さ | 声を真似る機能の出来 |
日本語の誤り率で並べると
リーダーボードは言語を切り替えられます。日本語の評価データはCV3-Evalだけで、声を真似ない(モデル標準の声で読む)条件の数値を並べたのが下の表です。
| モデル | 日本語CER | 大きさ | ライセンス |
|---|---|---|---|
| k2-fsa/OmniVoice | 4.61 | 0.81B | CC BY-NC(非商用) |
| nvidia/magpie_tts_multilingual_357m | 4.79 | 0.31B | 独自 |
| Supertone/supertonic-3 | 4.80 | 0.1B | Open RAIL-M |
| IndexTeam/IndexTTS-2.5 | 5.08 | 1.67B | 独自 |
| hexgrad/Kokoro-82M | 5.21 | 0.08B | Apache 2.0 |
| fishaudio/s2-pro | 5.58 | 4.95B | 独自 |
| Qwen/Qwen3-TTS-12Hz-1.7B-CustomVoice | 5.90 | 1.92B | Apache 2.0 |
| bosonai/higgs-tts-3-4b | 6.89 | 4.65B | 独自 |
| openbmb/VoxCPM2 | 7.50 | 2.38B | Apache 2.0 |
| ResembleAI/chatterbox(多言語版) | 8.82 | 0.8B | MIT |
| OpenMOSS-Team/MOSS-TTS | 8.92 | 8.49B | Apache 2.0 |
1位から5位まではCER 4.61〜5.21と、かなり詰まっていました。差が0.2ポイント程度なら、評価データの偏りで入れ替わってもおかしくない範囲だと思います。
目を引くのは大きさです。Kokoro-82Mは8,200万パラメータ、supertonic-3は1億。どちらも数十億パラメータのモデルと同じくらいの精度で日本語を読めている。小さいモデルは手元のパソコンでも軽く動くので、これは実用上かなり大きいはずです。
商用で使うならライセンスを先に見る
ここは表を見て最初に気づいたことでした。日本語で1位のOmniVoiceは、リーダーボードの表記ではCC BY-NC、つまり非商用に限られます。動画の収益化や業務で使うなら、そもそも候補から外れる。ただ、2026年10月4日時点でモデルカード側にはライセンスの記載が見当たりませんでした。使う前に配布元で確かめたほうが安全です。
Apache 2.0やMITなら、商用利用も含めて比較的自由に使えます。日本語の上位でいえば、Kokoro-82M(Apache 2.0)とQwen3-TTS(Apache 2.0)。supertonic-3のOpen RAIL-Mは、使い道に一定の制限をつけたライセンスで、商用利用自体はできても禁止事項を読んでおく必要がある。「独自」となっているものは、モデルごとの条件を個別に確かめないと分かりません。AI画像の商用利用と同じで、性能より先に規約を読むほうが手戻りが少ないと思います。
この数字で分からないこと
Hugging Face自身が、このリーダーボードは人の好みの順位の代わりにはならない、と書いています。誤り率は「音声認識が正しく聞き取れたか」の目安で、自然さや感情の乗り方、聞き手がどちらを好むかは測っていない。
日本語ならではの問題もあります。アクセントやイントネーションが不自然でも、音声認識が文字として正しく聞き取れればCERは下がる。「橋」と「箸」を逆の高さで読んでも、文脈から正しい漢字に戻されれば誤りとして数えられない可能性があります。AIが苦手な日本語の典型ですが、読み上げではこれが聞き手の違和感に直結する。数値で上位でも、実際に聞いてみるまでは決められません。
その点、リーダーボードには「Listen」というタブがあって、同じ文を各モデルが読んだ音声を聞き比べられます。気に入った音声に投票もできて、票が集まれば順位に反映するかもしれない、とのこと。
速さとストリーミング
大量に生成するときの速さ(RTFx)では、英語と日本語の平均でKokoro-82Mが約80倍速。1時間ぶんの音声を1分足らずで作れる計算です。精度と速さの両方で上位にいるので、ナレーションをまとめて作る用途なら、まず試す候補になりそうです。
音声で会話するエージェントを作るなら、最初の音が出るまでの時間のほうが大事になります。こちらは「Streaming」のタブで比べられ、発表ではkyutai/pocket-ttsがGPUでもCPUでも速いと紹介されていました。ただ、pocket-ttsは今回の日本語の評価には入っていません。
評価に使ったスクリプトは近く公開するそうです。自分の用途の文章でCERを測り直せるようになれば、ベンチマークの順位をそのまま信じるより確かな選び方ができる。それまでは、表で3〜4本に絞って、Listenタブと手元の試聴で決めるのが現実的なところでしょう。
出典
すべて2026年10月4日に確認したものです。
- Open TTS Leaderboard: Scalable Evaluation for Multilingual Text-to-Speech and Voice Cloning(Hugging Face・2026年9月30日)
- Open TTS Leaderboard(Hugging Face。9月30日版の結果を参照)
- CosyVoice 3: Towards In-the-wild Speech Generation via Scaling-up and Post-training(CV3-Evalの論文)
- hexgrad/Kokoro-82M(モデルカード)
- k2-fsa/OmniVoice(モデルカード)

