倒れたマグカップを起こして、その中に紙ナプキンを差し込む。人なら2秒で済む作業を、学習していないロボットアームにやらせる。Googleが2026年10月13日に開発者ブログで公開した「Gemini 4 Argon for Robotics」は、こういう場面の動画とコードがずらっと並んだ記事でした。
同じ日、Gemini 4 Argonは一般向けの提供も始まっています。9月30日の発表時点では一部の組織しか触れなかったモデルです(そのときの状況はGemini 4 Argonとはに書きました)。
ロボット専用モデルではない
最初に勘違いしやすい点を書いておきます。今回の記事は、ロボット用に別のモデルを出したという話ではありません。汎用のGemini 4 Argonを、ロボット開発のいろいろな工程に使ってみせた、という内容です。
Googleはこれを「汎用の物理推論モデル」と呼んでいて、物の動きの理解、コードを書く力、映像の意味を読む力がまとめて一段上がった、と説明していました。ロボットそのものを直接動かすだけでなく、シミュレーターの組み立てや、学習用データへのラベル付けまで含めて任せる。そういう使い方です。
ERQAで87%
性能の数字としてGoogleが前に出しているのは、身体を使う推論を測る評価ERQA(Embodied Reasoning)の87%。追加の道具を使わず、推論だけでこの点数で、ほかの最先端モデルをすべて上回ったとしています。比べた相手の点数は記事に出ていませんでした。
もう少し実感がわく数字もあります。
| 試したこと | 前 | 後 |
|---|---|---|
| シミュレーションで練習させてから実機で物をつかんで置く(SO-101アーム)・成功率 | 56% | 75% |
| 同じ作業の所要時間 | 35秒 | 24秒 |
| 自分で改善を繰り返したときの所要時間(3回) | 58.9秒 → 22.9秒 → 17.4秒 | |
SO-101は設計が公開されている小型のアームで、工場にあるような大きな産業用ではありません。こうした機材で数字を出しているのは、試す側からするとありがたい。
記事に並んでいた実例
実例はかなりの数があり、全部は追い切れませんでした。目を引いたものだけ挙げます。
- Boston DynamicsのSpotが、足で踏むペダル式のゴミ箱を開けて空き缶を捨てる。事前に物理シミュレーターMuJoCoの中の分身で練習させ、足の動きと手の動きをそれぞれ別のエージェントが確かめる
- 学習していないアームに、「見る」「つかむ」「置く」など11個の基本動作だけを渡し、マグカップを起こしてナプキンを入れさせる
- FrankaのFR3アームが、12個の玉から重さの違う1個を天秤3回で見つけるパズルを解く
- 136秒の折り紙の動画から、6つの小さな工程と17個の基本動作を書き出す
- 論文に書かれたロボット制御の手法を、ブラウザで動くシミュレーションとして再現する。その数は68本
Googleの本体のブログには、動画から投げ方を覚えてApptronikの人型ロボットApolloに移し、実機で7回連続で的に入れた、という例も載っていました。
個人的に実用に近いと感じたのは、折り紙の動画にラベルを付ける例です。ロボットの学習データ作りでいちばん手間がかかるのは、人の操作の記録に「ここからここまでが何の作業か」を書き込むところ。そこを任せられるなら、研究室の負担はかなり減るはずです。シミュレーションで4,500本以上の練習データを作り、ロボット用の視覚言語行動モデル(VLA)の追加学習に回した、という例もありました。
どこで使えて、料金はいくらか
10月13日からの提供先を、Googleの発表から整理するとこうなります。
| 使う場所 | 対象 |
|---|---|
| Gemini API(モデルID: gemini-4-argon) | AI Studioの有料枠。Interactions APIから呼ぶ |
| Google AI Studio | Google AI Ultraの契約者 |
| Google Antigravity | Google AI Ultraの契約者 |
| Geminiアプリ・検索のAIモード | Google AI UltraとProの契約者 |
APIの料金は100万トークンあたり入力2ドル(約316円)、出力10ドル(約1,581円)の導入価格。2026年11月30日を過ぎると、入力4ドル(約632円)、出力20ドル(約3,162円)に上がると注記されています。前回の記事を書いた時点では導入価格の終わりが分からなかったので、ここは一歩進みました。
提供は「世界中で」とありますが、国ごとの一覧はなく、日本語の言及もありません。ロボットを制御するときの安全面の注意も、記事の中の指示文に「AGENTS.mdの安全ルールに従う」と書かれている程度で、まとまった説明は見当たりませんでした。実機を動かすなら、そこは自分で設計する前提だと思います。
試すなら、まずシミュレーターから
実例の多くは、MuJoCoの中で動きを作ってから実機に移す流れでした。いきなり実機につなぐより、先にシミュレーターで何度も失敗させる。考えてみれば当たり前の順番を、モデル自身にやらせているわけです。
AIに実験装置を動かさせるという点では、AnthropicのModel Hardware Standardとも方向が重なります。あちらは機材をつなぐ取り決めの話、こちらはモデルの能力の話。各社がどこまで物理の世界に手を伸ばすのか、もう少し様子を見たいところです。
長い作業を任せるほど出力トークンはかさみます。単価だけで判断しないほうがいい理由はAIのAPI料金表の読み方にまとめました。
出典
すべて2026年10月14日に確認したものです。
- Gemini 4 Argon for Robotics(Google Developers Blog・2026年10月13日)
- Gemini 4 Argon: Built to solve your hardest problems(Google・2026年10月13日)
- ERQA(GitHub・評価の中身)
- Gemini 4 Argon is now available worldwide(THE DECODER・2026年10月13日)
為替は欧州中央銀行の参照レート(Frankfurter経由、2026年10月13日)の1ドル158.12円を使いました。

