研修をやったのに使われない。この相談をよく受けます。
原因は教える内容ではなく、順番と対象にあることが多い。
全員に同じことを教えない
まず、対象を分けます。
| 層 | 知りたいこと | 教える内容 |
|---|---|---|
| すでに使っている人 | もっとうまい使い方 | 失敗例と、その回避 |
| 試したが続かなかった人 | なぜ自分は使えなかったのか | 向いている作業の見分け方 |
| 触っていない人 | そもそも何ができるのか | 自分の業務での実例1つ |
| 管理する立場の人 | どこまで許してよいか | 入れてよい情報と、確認の工程 |
2番目の層がいちばん多く、いちばん取りこぼされています。一度触って「思ったほどではない」と判断した人たち。ここに効くのは機能の説明ではなく、向いている作業の見分け方です。
最初に教えること
操作方法から入ると、たいてい定着しません。押し方が分かっても、何に使うかが分からないからです。
最初に伝えるべきは、向いている作業と向いていない作業の線引きでしょう。
出てきた答えが正しいかを人がすぐ判断できる仕事は安全です。文章の下書き、要約、言い換え、翻訳。読めば間違いが分かります。
確認するほうが自分でやるより手間のかかる仕事は危ない。数値の突き合わせ、法令の条番号、出典集め。この区別だけ先に伝えておくと、変な使い方で失望する人が減ります。
その人の業務で1つ動かす
一般的な例では動きません。「議事録が作れます」と言われても、自分の議事録が作れるかは分からない。
研修の場で、その人が実際に抱えている作業を1つ持ってきてもらう。それをその場で処理してみせる。うまくいかなければ、なぜうまくいかないかを一緒に見る。
これができれば、その1つは翌日から使われます。10個の機能説明より効果があります。
失敗の型を先に見せる
できることだけを教えると、最初の失敗で離れます。
先に見せておく。書かれていないことを補うこと。出典が存在しないことがあること。数字がわずかにずれること。同じ質問でも答えが変わること。
これらは不具合ではなく仕組みから来る性質だ、と伝えておくと、遭遇したときに「壊れている」ではなく「そういうものだ」と受け止められます。
失望は、期待と実際のずれから生まれます。期待を先に調整しておくのが早い。
教える人を作る
外部の講師を呼ぶより、社内に分かる人を作るほうが長続きするようです。
理由は、質問が業務に紐づいているからです。「この帳票をどう処理させるか」という問いに答えられるのは、その帳票を知っている人だけ。一般論では届きません。
選ぶなら、すでに自分で使い始めている人。指名して育てるより、勝手に触っている人を見つけて役割を与えるほうが早い。
その人が困ったときに聞ける先も用意しておくこと。全部を抱えさせると潰れます。
ルールは短く
研修と同時に配るルールは、1枚に収めます。
入れてよい情報の線引き、使ってよいサービス、出力の確認、迷ったときの相談先。この4つで足ります。
禁止事項を並べたルールは読まれないうえ、書いていない場面が必ず出てきます。許可するものを挙げる形にすると、それ以外は相談に回るので列挙漏れが起きません。
教えたあと
研修の効果は、その日ではなく2週間後に出ます。
「うまくいった例」を集める場所を作っておく。誰かが見つけた使い方が共有されると、他の人も試します。機能の説明より、同僚の実例のほうが人を動かす。
逆に、うまくいかなかった例も集めておく。同じところで詰まる人が減ります。
研修を増やすより、この場を1つ作るほうが定着します。
効果を測る
研修をやった、で終わらせないために、何を見るかを決めておきます。
受講者数や満足度では、次につながりません。見るなら、ある業務にかかる時間が変わったか。手戻りが減ったか。同じ人数で処理できる件数が増えたか。
研修の前に、いまの状態を測っておくのが肝心です。後から比べようとしても、前がどうだったか誰も覚えていません。
利用率を指標にするのは勧めません。ひとりで増やせる数字は、指標として弱いからです。
数字が動かなくても、失敗ではありません。どの業務に効かないかが分かったということです。次はそこを外して試せます。
研修は一度で終わらせず、半年後にもう一度やる。使い方も道具も変わっているので、そのときには別の内容になっているはずです。
出典
仕組みから来る性質については下記の論文、社内ルールの観点は下記の資料に基づきます。

